「移り変わる私たちの楽しみ」

「マジで?姉ちゃん、妊娠したの!!」
離れて住む妹に妊娠の報告をすると、
鼓膜がどうにかなりそうな大声が返ってきた。
予想外の大音量に一瞬ビクッとするが、そのまま一息ついて会話を続けた。

「そうなの。だから今回からしばらく小旅行は行けないの。ごめんね」
「仕方ないなぁ、じゃあ、また私一人旅に戻るわ。じゃあね、頑張りなよ」
そう言うと、妹は通話を終了した。

耳の奥に、まだあの大声の余韻が残っている。
学生時代から、自分探しだの、B級グルメツアーだのと言っては、
フットワーク軽く小旅行へ出かける妹に誘われて、
数年前から一緒に日本の各地を一泊旅行して周っていた。

しかし1年前に私が結婚、30歳を目前にして妊娠。

5つ年下の妹とは、今回は東京で待ち合わせをして、
妹お勧めのカフェ巡りをする約束をしていたが、
残念ながら当分行けそうにもない。
季節ごとの楽しみだった妹との小旅行に行けなくなるということで、
ママになるということは生半可な現実ではないと少し思い知らされた気がした。

 
 

「出産祝いに込められた妹の優しさ」

そんな揺れる気持ちとは裏腹に、
容赦なく時間は過ぎ、あっという間にママになる日は訪れた。
激痛に耐えてやっと会えたわが子の顔は、
まさに天使のように清らかで可愛かった。
しかしその日から容赦のない不眠不休の育児生活も始まる。
手際も要領も得ないまま、
手探りで母や保健師さんに教わりながら始めた子どもとの生活は、
心構えをしていたつもりは、ただのつもりだったと何度も思い知らされる。
そんな毎日に追われていたある日、妹からのお祝いが届いた。

1万円。いつでも旅行に行けるようにと、
融通のきく会社で派遣社員をしながら一人暮らししている妹には、
大金のはずだ。

お礼の電話をすると、生意気にも
「気にしないで。姉ちゃんは私と違って不器用な真面目人間なんだから、
きっと赤ちゃんのお世話でいっぱいいっぱいなんでしょ?
私と貧乏旅行に行けない代わりに、
それで美味しい物でも食べて、気分転換しなよ」
と、私の心を見透かしたようなことを言った。

「ありがとう」
素直に妹の心遣いに感謝すると、
妹にも喜んでもらえる何かでお返しをしようと思いついた。
できれば形として残るもので、
妹の好みに合うものをとあれこれ探していたら、
COLONカタログギフト アイスという、
とてもお洒落で可愛らしいカタログを見つけ、すぐこれにしようと決めた。

 
 

「二人の成長が楽しみな待ち遠しい日々」

カタログを送ったのに、ひと月経ってもなんの連絡も来ない。
しばらく気になっていたけれど、
やがてそれも育児に追われて忘れていたある日、突然妹から電話がかかってきた。
「素敵なバッグありがとう!」
バッグ?送ってないんだけど…と何のことかと思ったら、
どうやら、贈ったカタログの中から、
IENAショルダートートバッグを選んだとのことだった。

「シンプルだけど、デザイン可愛いし、
何かツボだったんだよね。カタログ届いたのにお礼言うの忘れてごめん」
「いいけど、どうかしたの?何かあったんじゃないかって心配したよ」

思わずそう言うと、妹はごめん、ごめんと繰り返しながら、
あのさ、とスマホの向こうで姿勢を正したようだった。
「私、今日会社辞めたの。だから姉ちゃんのカタログが届いた頃は、
引き継ぎやら次の準備やらで忙しくてね。
アパート帰ると真夜中だし、夜遅くに電話すると悪いし、と思っていたら、
今日になったんだけどさ…私、オーストラリアに語学留学に行くの」

ずっと前から計画していて少しずつお金も貯めていたこと、
英語を身に付けて、いつか大好きな旅行がいつでもできる
添乗員になることが目標だと、いつになく真摯な口調で話した。

「でさ、姉ちゃんのくれたバッグ、可愛い姪っ子のお祝いのだし、
お守り代わりで持って行こうと思ってるよ。大切にする」
「うん、体に気を付けてね、絶対に無理はだめよ」

ちょっとしんみりして、泣きそうになっていると、
またスマホからいつもの元気のいい声が響き渡る。
「大丈夫!私は病気なんてしないんだから。
姉ちゃんこそ、無理しないでよ。1年後に帰ってくるから、
そしたら姪っ子ちゃんと姉ちゃんと、姉ちゃん家でランチしようね。
3年後には姪っ子ちゃんと一緒に3人で小旅行復活ね!」
「相変わらず気が早いなぁ…分かった。待ってるよ」

気を付けて、ともう一度言う前に、
また妹は一方的に通話終了を押したらしい。
1年後、3年後、一回りも二回りも大きくなった妹と、
娘と過ごす日が、キラキラと輝いているようで、
今からとても待ち遠しい。

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