「助け合いながら成長してきた三姉弟」

仕事を終えて車に乗り込むと、ハンドルを握りながら考えた。
この前この道を通ったのはいつだっただろう。
甥っ子を見に行った時、
そういえば一人で病院の部屋を探しながら、ドキドキしてたな。

姉が1か月前に男の子を産んで、
僕は今、その子に会うために京都の実家に向かっている。

実家には、両親がいるけれど、僕にとっての親は、実質姉でもある。
両親は、何度も離婚再婚を繰り返し、
僕たち子どもは助け合いながら成長してきた。
特に7歳上の姉は、いつも夕飯を作ってくれた。
僕には姉が二人いるけれど、もう一人の姉が洗濯担当で、一番上の姉は料理担当だった。

今、大人になった僕たちは、両親とは少し距離を置いて、それぞれ別に暮らしている。心も場所も。
家族の絆はあるが、適度な距離が、僕たち家族にはちょうどいい。

きょうだい3人、大人になって、やっと親に振り回されないで、
それぞれ自分たちで生きていけるようになり、少しの自由を手に入れた。

そんな姉が、なぜか子どもを産むために、里帰り出産をすることになった。
義理の兄が第一線で、毎日夜遅くまで働いていることや、
母が赤ちゃんには目がないくらい、大好きなこともあって、
実家に帰ることになったようだ。
これまで親に振り回されてきたけれど、
物心つくまではしっかり見守って愛情をもらった記憶はある。
きっと姉も同じ思い出があったのだろう。

 
 

「母になった姉との再会」

久々に実家について玄関を開けたら、大きな声で泣く、
赤ちゃんの声が聞こえてきた。元気な声だ。
リビングの部屋から姉の声も聞こえてきた。
「おかえり」

もう一人の姉も、
留学先のオーストラリアから夕方に帰国してくる予定だ。

「1か月でこんなに大きくなるんや」
「病院の時は、まだおさるさんみたいやったもんな」
「仕事がんばってる?」
など、たわいもない会話を楽しみながら、僕は久々に安堵感を覚えていた。

「それよりおかん、どこ行ったん?」
「ああ、買い物。
ちょっとみんなが久々に帰ってくるからメロンでも買ってくるわって」
定年前の父とパート勤務の母は、二人で仲良く暮らしているようだが、
僕たちが子どものころは、急に母が家出したりすることが当たり前の毎日だった。
姉が帰ってきてるのに、また、どこかへ行ってしまったのかと一瞬思った。
そんな気持ちを予測したかのように、姉がゆっくりと話しはじめた。

「子ども産んだら、親のありがたみが分かるようになった」
「3人も子どもいたから、いろいろ大変やったと思うわ」

これまでのことはなかったかのように、
あっけらかんと話す姉を見て、親になるということは、
そういうものなのかと実感した。
母は強し。

我が子をあやしながら話す姉は、いいお母さんになるにはじゅうぶんなくらい、
優しい笑顔に満ちていた。
姉にはこれからもっともっと幸せになってもらいたい。
そんなことを思いながらぼんやりしていると、
「ちょっと抱っこしてて」と言って、姉は隣の部屋へ行った。

「こんにちは こんにちは」
抱っこしながら甥っ子に話しかけてみると、
なんだか僕の顔をじっと見て笑ってくれたような気がした。

親のありがたみ…。こんな小さい時から子ども3人を育ててくれたんやな。
そうやな。感謝やな。
僕も赤ちゃんを抱いたら自然にそんな気持ちになれた。
親と子の縁というのは不思議なもんだ。
いろんな思いや感情が渦巻きながらも、
こうやって小さな命から教えてもらうことってたくさんあるのだろう。
なんだか涙がでそうになった。

「あ、これこの前のお礼。内祝い。渡しとくわ。好きなの選んで」
中を開けると、カタログギフトの冊子が入っていた。

「こんなん。ええのに」
「まあ、みんなに渡してるから。
この間はありがとう。忙しいのに病院まできてくれて」

結婚とともに名古屋に行ってしまった姉。
里帰り出産で、名古屋から久々に戻ってきて、
今日は、昔のようにみんなの夕飯を作ってくれていた。
メニューは、オムライス。子どものようだけど、
ケチャップ味のこのチキンライスが好きで、夕飯がオムライスだった時とてもうれしかった。

「あとは卵を焼くだけやから」
姉はそう言って、急いで僕にオムライスを食べさせようと、
卵を焼いていた。

「姉ちゃん、今日はきれいな卵にしてや」
「まかせて、あ、やっぱりごめん」

姉はオムライスの具はおいしいのに、卵がいつも焼き過ぎたり、
穴が空いたりするのだ。もちろんふわっとした卵がのった時は数えるほど。

「あ、帰ってたん」
母が大きなメロンを抱えて帰ってきた。

「そんな大きいメロン買ってきたんや、おいしそうやなあ」
僕の中の何かが変わっていた。母に少し優しい自分に気がついた。
もしかしてこれが、大人になっていくってことなのかもしれない。
新しい家族が教えてくれた。

その後、父ともう一人の姉も帰宅して、久々の一家だんらんを楽しんだ。

 
 

「新しい食卓であの思い出の味を」

夜、車で30分ほどの自宅に戻って、姉にもらったカタログギフトを見ていた。
小一時間かけてじっくり見ていた。
おもしろいものがきれいな写真と一緒に並んでいて案外おもしろい。

パラパラめくっていたら、
オムライスの卵がうまく焼けそうなフライパンをみつけた。
「これだ!」
まだ高校生だった姉が、一生懸命にオムライスを作ってくれる背中を思い出した。
僕は、ハガキに、送り先を姉の家の住所にして、オムフライパンを選んだ。
姉はどんな顔をするだろう。

来週には、名古屋に戻るらしいから、
帰ってからフライパンが届くようにすればいい。
新しい家庭を作った姉。
甥っ子が大きくなったら、ふんわり卵のおいしいオムライスを作ってほしい。
姉の家族にも、あのおいしいオムライスを味わってほしい。

来月あたり、名古屋を訪ねてみよう。

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